パンが焼けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 
 
 
 
 
 

それはもう申し分ないくらいに
一体これがはたして
パンなのかも推測ができないほどに
パンは燃え尽き
本来の姿に戻っていた。
 
 

パンがパンとして
役目を果たせないまま
その物質としての生涯を
終えてしまったのだ。
 
 
 
パンは弾け
パンは散り
パンは玉砕した。
 
 
 
 
もうそこにパンはなかったけど
 
 
ひとつひとつがパンとして
全てのパンが生きていて、
 
 
 
独特な色たちは
空間の一部をそれぞれ陣取っていた。
 
 
 

明らかに不自然だった。
 
 
 
 
 
 
 

仕方がないから
僕はその欠片を集め始めていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
子供時代を思い出しながら
 

ただ、そこにあった破片を
自分の内に取り込んでいく。
 
 

美味しそうに見えたそれは
ぼくの深くの傷を抉るような
神経を摩耗させていく味がした。
 
繰り返し食べているそれは
自分の脳を締め付けるような
痛みを伴う味だった。
 
 
つつましく微笑ましいそれは
裏切りの味がした。
 
 
 
 
 
 
 
味がなかったら、
 
 
 
 
 
 
 
感覚がなかったら
幸せだっただろうか。
 
 
 
 
 
 
 

飢餓と苦悩のはざまで
ゆるやかに侵食されていく
 
 
 
 
 
自分がなくなっていく感覚は
 
 
耽美だった。
 
 
 
 
自分が強くなっていくにつれて
静かになっていった。
 
 
 

入り交じる不確かさに
 

文字通りぼくという存在は
混沌としていた。
 
 

手に負えない獰猛な感情が、
幾重にもなる恐怖を前に
どうすることもできずにいた。
 
 
 
 
 
 

それは災厄であった。