思い出の海がある。
 
砂浜だけがどこまでも広がる
殺風景な暗い色が
ところ狭しと詰められていた。
 
海と聞いてやって来た観光客には
期待と違っていた光景に
困惑や不安を感じる人もいたし
不満を抱いて帰る人も多くいた。
 
それでいい、とも思った。
 

ここは何もない。
そんな寂しい場所。
 
 
雨が降れば
大地が雫を吸い取っていく場面に
出くわすことができる。
 
ずいぶんと原始的だけど、
雨を呼ぶためには想いが必要だった。
 
 
海と名前はついているけど
海じゃない。
 
不思議だったけれど、今はもう
そんなことは重要に思わなくなった。
 
 

自分と似た
想いを抱える旅につかれた人たちが
地平線のその先を
 
ぼんやり眺めていた。
 
 
 
 

言葉は特に、いらなかった。